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国立

国立在住のトルコ人陶芸家
Cengiz Dikdoğmuş ジェンギズ ディクドウムシュさん
~国立での暮らしのインスピレーションからオリジナルの作品を生み続ける~

大自然のなかに佇む、
トルコを感じる居心地のいい工房

来日22年になる国立在住のトルコ人陶芸家、Cengiz Dikdoğmuş ジェンギズ ディクドウムシュさん。国立にある「ギャラリー ゆりの木」のダイレクトメールで目にした器に魅了され、「この方にお会いして作品を是非見たい」とずっと思っていた。

山梨県の大自然のなかに佇む工房を訪れると、穏やかな口調でたくさんの思いを語ってくださった。

青々と茂る木々の中を小川に導かれ、下ったところにその工房はあった。中に入ると素敵な空間が広がっていた。入口には障子のついたてがあり和の印象を受けたが、キリムの絨毯やトルコ珈琲の道具、国旗などトルコのものも多くそれらがうまく調和していた。近くで摘んだという小花が、剣山をイメージして作られたというオリジナルの陶器の花どめを使って飾られ、工房に彩りを添えていた。

ご自身の器に入れてくださったトルコ紅茶はさっぱりしていてとても美味しかった。添えられたトマトは庭で栽培したもの。居心地のいい空間で温かいもてなしを受け、友人の家を訪れたようだった。

  • (左)工房に続く道(右)大自然の中に佇む工房 (左)工房に続く道
    (右)大自然の中に佇む工房
  • 自家製トマトとトルコ紅茶をご自身の器で。(2段目左)紅茶のパッケージにあるのがチャイグラス 自家製トマトとトルコ紅茶をご自身の器で。
    (2段目左)紅茶のパッケージにあるのがチャイグラス

自分の思いを大切にしながら周囲のエッセンスも大切に

ジェンギズさんと話していると、誠実な人柄がよく伝わってくる。人への気遣い、創作に対する真摯な姿勢、一生懸命生きようという姿に尊敬の念を抱いた。

来日して22年、国立に住み始めたのは5年前。日本でいくつかの地に住んだが、初めて自分の国に帰ったような安心感を覚えた。人、歴史、結婚、同郷の人の存在、いろいろな要素があったのだと思う。

ジェンギズさんは自分だけの創作の世界にこもるのではなく、常に周囲からのエッセンスを取り入れようとアンテナを張っている。「自分自身を曲げないところと周囲からの影響を受けて変わること、どちらも大切」と話す。時にはギャラリーで他の作家さんに話しかけ、お互いのエッセンスを交換することもある。

休日には国立のお気に入りのギャラリーをまわり、本屋に寄り、ケーキを買う。こうした日常が作陶にインスピレーションを与えている。

エリアマガジン「ののわ」の冊子を手に取り、明るさ、色合いを誉めたうえで、「(「緑×人×街がつながるデザインは)私にもわかりやすい。『ののわ』の3文字も意味はわからないけれどオブジェみたいでいいね。人に想像させることも大事なんですよね。」と話されるのを聞き、いろいろなことに興味を持って自分なりにしっかり噛みしめる方だと思った。

  • ジェンギズさん。サボテンが並ぶかわいい洋服がお似合いでした ジェンギズさん。サボテンが並ぶかわいい洋服がお似合いでした
  • (左)それぞれに違った魅力をもつ器。右端が感動した湯呑み。(右)モダンな椅子で作陶に臨む。窓の外には緑が広がっている (左)それぞれに違った魅力をもつ器。右端が感動した湯呑み。
    (右)モダンな椅子で作陶に臨む。窓の外には緑が広がっている

ジェンギズさんにしか生み出せないオリジナルの作品

ジェンギズさんの作る器は、美しいトルコブルーやトルコ原産のチューリップをあしらったもの、伝統的な文様を施したものなどトルコに根づいたものを取り入れながらも、和の器といってもいいほど日本らしさを感じるものも多い。それは、オリーブ釉の濃淡が織りなす味わいのある深い緑、モネの絵画のような色彩の広がりを見せる美しい七色など感じのいい色と風合いにある。私が感動したのはチャイグラスと呼ばれる形をした湯呑。真ん中がくびれた形と光沢のある質感による手のフィット感が何とも言えずいい。トルコ伝統の文様からヒントを得たジェンギズさんオリジナルの彫りが施された鮮やかな水色、最後の一つに巡り合えてよかった。トルコで陶芸を学び、日本で自分なりの陶を追求し続けてきたジェンギズさんだからこそ作りだせる器たち。

ジェンギズさんが大切にするのは自然体で作陶に臨むこと。「その時の気持ち、状態はその時しかないので同じものを再び生み出すことはとても難しい。注文を受けても1、2年かかることもあるが納得のいくものを作りたい。」と話す。粘土は品に合わせてブレンドする。「『全ての人に感動を』ではなく『感動してくれる人と出会える』ことが大事」だとジェンギズさん。「自分に正直に形にすれば誰かが見つけてくれる、いいものを作り続けることが大切。」と語る。

  • (左上)ぎっしりと並ぶ器たちは見ているだけで楽しい(右上)モネを彷彿させる美しい七色の湯呑み<br />(左下)厚みのある釉薬が垂れかかる風合いが素晴らしい<br />(右下)トルコ原産のチューリップをモチーフにしたもの。一つ一つ花の形が異なる。これから開く蕾が一番好きだそう。 (左上)ぎっしりと並ぶ器たちは見ているだけで楽しい
    (右上)モネを彷彿させる美しい七色の湯呑み
    (左下)厚みのある釉薬が垂れかかる風合いが素晴らしい
    (右下)トルコ原産のチューリップをモチーフにしたもの。一つ一つ花の形が異なる。これから開く蕾が一番好きだそう。
  • ジェンギズさんの作品たち。いろいろな作品が飾ってありどれも興味深い(左)Ebru(エブル)画(トルコマーブリング)。鮮やかな色合いのコントラストが美しい ジェンギズさんの作品たち。いろいろな作品が飾ってありどれも興味深い
    (左)Ebru(エブル)画(トルコマーブリング)。鮮やかな色合いのコントラストが美しい

人生の出会い全てが自分自身を豊かにしてくれる

「いろいろな花から集めた蜂蜜がおいしいように、楽しいこと、大変だったこと、悲しいこと全てが大切なエッセンス。今の自分が一番豊か。」とジェンギズさん。「新しいステップに進むためにも、離れて20年以上経ち別の国のようになっている母国や外国など新しい世界も見てみたい。新しいものに感動し、またここに戻ってくると思う。」と語る。

「走ると見えないものもゆっくりと周囲を見渡すことで見えてくるものがある。」と話す彼は、一つ一つの出会いを大切に自分の中に吸収しながら丁寧に歩を進める。

どこに行っても誠実に真摯にものづくりに打ち込まれるのだろう。陶芸以外にもトルコで学んだ細密画(テズヒップ)や国立で学んだというEbru(エブル)画(トルコマーブリング)などどれも魅力的だった。才能とともに好奇心と行動力、人柄などジェンギズさんの持つ力と可能性は大きい。お会いできて本当によかったと思う方だった。これから生み出される新たな作品もとても楽しみだ。

Cengiz Dikdoğmuş ジェンギズ ディクドウムシュさん
1966年、トルコ共和国 首都アンカラ生まれ
1986年、アナドル大学 陶芸学科卒業
1990年、ハジェテペ大学 美術学部卒業
1991年、栃木県益子町の(株)つかもとの研究生として来日
1998年、独立。山梨県上野原市棡原に工房を築く
2008年、現在の場所へ工房を移す

(編集/テキスト 地域ライター 堀内まりえ)

  • (左)さんざん迷ったあげく選んだお気に入りの品。後方は細密画(テズヒップ)のポストカード(右)お手製の紙袋に入れて頂いたトマトのお土産。サインのチューリップマークもかわいい (左)さんざん迷ったあげく選んだお気に入りの品。後方は細密画(テズヒップ)のポストカード
    (右)お手製の紙袋に入れて頂いたトマトのお土産。サインのチューリップマークもかわいい

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