ののわ

東京のまん中にあるライフスタイルを考える

地域の魅力を共有し、
暮らし方や働き方を見つめ直すことで、
この地域ならではのライフスタイルを探っていきます。

記事詳細

リノベーションを切り口に、建築家の枠を越えた住まいの提案を行う大島芳彦さんと、自宅を「西国図書室」として“住み開き”しながら、人とまちとの出会いを演出する篠原靖弘さんが、人と住まいとまちの関係や、これからの暮らし方の可能性について語り合いました。

ののわトークセッション

第9回ののわトークセッション公開対談『まちと住まい』

まちにはリアリティがある

大島 これまで「家を手に入れる」というと、多くの人にとって「新築を買う」という行為が一つの夢であり到達点だと考えられてきました。「中古」や「賃貸」という選択肢はそれを達成できない人、あるいはそれを達成するまでの間の我慢する選択肢と捉えられていたのです。しかし、それが今では「高価な新築を買うなんてもったいない」という人が増えており、そもそも使えるお金があっても買わない人が増えています。暮らしの価値観や選択肢が変わってきているのです。

 僕は仕事として建築設計をやってきて、建築で「作品をつくる」という感覚にずっと違和感を持っていた。「暮らし」の感覚と乖離していると思っていました。人の暮らしとは家という建築物だけで完結するものではありません。理想の暮らしとは、その周辺、例えば不動産やファイナンスの仕組み、さらには暮らす人や関わる人々の意識によって大きく異なります。だから僕らは建築だけでなく、人それぞれ、一つ一つの暮らしを多角的に編集するという感覚を大事にしています。「物件」ではなく、「物語」をつくる感覚です。

篠原 「物件」ではない、という意見に共感します。私たちは、「物件」ではなく、「まち」とのつながりがある暮らしを大事にしています。これから住もうと考えているまちで不動産屋に部屋を案内してもらったけれど、車で移動しているので、まちのことをなにも知らずに引っ越すことはよくあるのではないでしょうか。その時にまちでの知合いは不動産屋だけということも多い。

 私たちは、案内をする時に「物件」だけはなく「まち」を感じてもらうようにしています。このまちなら、どんな暮らしができるかをイメージするのです。すると、家の問題だけに収まらず、「このまちで暮らそう、働こう」となる人も現われる。住まい方、暮らし方、働き方が重なって、新しい取り組み方が生まれてきています。

大島 三多摩地区には生活のリアリティがあるんでしょうね。僕らのお客さんでも都心の一人暮らしから、このエリアに二人で暮らそうと引っ越す人が増えている。ことに30代。ここでの二人暮らしならリーズナブルに生活環境をランクアップできる。このエリアは甲州街道、五日市街道を始めとした街道文化、農村文化が今も残っています。都心と比べて周辺の自然環境がよいだけでなく、歴史的な文化も感じることができる。身の丈サイズの夢があるんですよ。

篠原 そうですね。私たちはまちに興味を持ってもらうために「ディスカバリーツアー」というまち歩きをしながら、物件を見学するツアーを企画しています。みんなよく歩きますよ。気持ちよく和気あいあいと歩けるのは大体2時間くらいですね。参加者には、部屋探しをしている人も、引っ越したばかりの人も、まちに暮らしている人もいます。参加者同士、まちのことをよく知っている人が知らない人に説明したり。するとツアーを経て引っ越してきた人にとっては、あの時に会った人がいるまちと思える。こんな小さなことの一つ一つがまちとつながった暮らしなんだな、と思います。

大島 子どもも年寄りも心置きなく歩ける範囲は半径300mくらいかな。その範囲が一つのエリアになる。そこをどう掘り下げるかが大事なんです。篠原さんたちがやっている「ぶんぶんウォーク」*1がまさにそのくらいの規模になっていますね。

大島芳彦(おおしま よしひこ)
株式会社ブルースタジオ専務取締役。クリエイティブディレクター。建築家。武蔵野美術大学建築学科卒業後、アメリカSCI-Arcに学び、石本建築事務所を経て、2000年からブルースタジオで社会における建築ストックの活用をテーマに建築設計、不動産コンサルティングを展開。活動域はデザインにとどまらず、マーケティング、ブランディング、まちづくりコンサルティングなど多岐にわたる。
http://www.bluestudio.jp/

笑いをとる、おすそわけをするくらいの感じで

大島 まちに昔から暮らしている人は「ウチのまちには何もない。おもしろくない」なんて言うけど、どこに行ったって、そんなことはないと思いませんか?

篠原 そうですよね。いつもと違う道を歩いてみるだけで違います。出かける時に最短の道を通らずに、ちょっと寄り道やまわり道をするだけで発見できます。

大島 僕が委員長を務める一般社団法人HEAD研究会のリノベーションタスクフォースでは、4年前から地方都市を行脚して「リノベーションシンポジウム」を行っていますが、その中の定番イベントとして「リノベーション大喜利」というものをやっています。これは毎回僕ら「よそもの」が見ず知らずのまちを歩きまわって、僕らの視点でおもしろそうなものを探し出します。おおよそ3時間の制限時間で、終了後、シンポジウム会場に集まった市民の皆さんの前で、大喜利形式で発見した宝物のプレゼンテーションをするんですが、笑いがとれなかったらダメ、というルールなんです。

 地元の人は「バカなこと言ってるな」なんて笑いながらも、自分たちのまちのおもしろさに気づきます。「そうかリノベーションって、それくらい自由に楽しめばいいことなんだ」と感じてもらえば大成功。まちの見知らぬ側面を知るには、笑いをとるくらいの軽い感じがいいですね。

篠原 まちの小さな魅力を発見するのは楽しいですよね。ディスカバリーツアーでも、名所旧跡ではなく、街角にこぼれ落ちている魅力を拾い集めている感じです。「楽しい」は人をつなぎますよね。今はとかく「住まいはプライベート」と捉えられていて、セキュリティを高めるような方向にいっています。しかし考えてみれば、まちにとって家は公的資産だともいえます。ならばプライベートだからと閉じるのではなく、まちに開いて少しおすそわけしてもいいのではないか。私のように「住み開き」とまではいかなくても、きれいに手入れした庭を見てもらうだけでも楽しくなるもの。コミュニティというと大げさに聞こえるけれど、おすそわけくらいの感じでまちとの距離感がとれないかな、と思っています。

大島 コミュニティは、そんな大上段に構えてつくるものではないと思います。「きっかけ」を散りばめて、その結果としてコミュニティがあるというくらいでいい。毎朝、自分の家の前で草むしりをしていると、近所の人は「精が出ますね」と話しかけたり、「ウチもやろうかな」と思ったりする。そんな些細なことでも十分きっかけになるんです。

篠原靖弘(しのはら やすひろ)
株式会社エヌキューテンゴ、まち暮らし不動産。宅地建物取引主任者。一級建築士。チームネットにて個人住宅、コーポラティブハウス、ハウスメーカー、マンションなどの企画・プロデュースに従事。その後、工務店・設計事務所で個人住宅の設計・現場管理。2012年から自宅を住み開きして、もちより図書室「西国図書室」を開室。同年、エヌキューテンゴ、まち暮らし不動産の立ち上げに参加。人と人、人とまち、人と自然が重なり合う暮らしづくりをテーマに活動している。
http://www.n95.jp
http://www.machigurashi.jp

シェアハウスで注意したいこと

大島 今、シェアハウス*2が求められて増えてきていますが、ちょっと危険だなぁと思うことがあります。逃げ場所になってはいないかと。個室があり食堂などの共用スペースがあるということは、かなり旅館やホテルに近い。実際シェアハウスとホテルのビルディング・タイプ(建築の型)はそれほど変わらないから、下手すると僕らはサービスを一方的に提供する場になってしまう可能性がある。

 シェアハウスとは共同生活を営むための住環境なわけですから、ホテルとは違ってサービスの質や量が問われるべきではありません。住人それぞれの自主性とコミュニティの組成員としての当事者意識が大事なのです。僕らは設計者、企画者として、その当事者意識を生じさせるためのきっかけをデザインすることが仕事だと思っています。

 そのためには「共感」を生むデザインが必要です。共感の輪は広がり、どんどん伝染します。そうした共同体は、入居者だけでなく施主の大家さんにも気持ちがいい。「ウチでもやってみようか」と思えるあり方、生活者も大家さんも対等に暮らしのクオリティについて価値観を共有できる暮らし、そんなものが生まれるシェアハウスがいいな、と思います。

篠原 そうですね。「共感」の輪をまちまで広げていきたいですね。私たちの提案するシェアハウスでは、住人のみが使うプライベートコモンとまちへ開いたパブリックコモンの二つのコモンスペースを設けています。私が暮らした築150年の古民家の座敷をまちに開くシェアハウスでの体験を元にデザインしています。まちとのつながりが暮らしを豊かにする開かれたシェアハウスを生み出したいです。住みながら、まちとのつながりが広がっていく暮らしを楽しんでほしいな。もっと暮らしは自由であっていいはずですよね。

大島 空間もサービスの形もあまりつくり込みすぎないことです。コミュニティが生まれるのはいいことだし、すてきだと思うけれど、下手をすると「それ、誰がやるの?」となってしまいますからね。コミュニティはつくるものではなく、完全でない余白のような部分から生まれるものです。

(構成・文:中野照子)

<大島芳彦さんの仕事>
1. うめこみち
大田区梅屋敷、昔ながらの地主が所有する活用していない駐車場や古い借家のリノベーション。単に建て替えるのではなく、この土地代々の建物の歴史を聞くことから始め、ここに長く住み続けている家族でなければできないコミュニティづくりを提案。新たにつくり上げた5世帯の賃貸住宅は、既存マンションや地主ご家族の母屋とともにコミュニティガーデンを共有する。正月の竣工時には地主から町内の人々に積極的に呼びかけて、まち開きのイベント(餅つき)を開催。その昔ながらの暖かい情景に共感した人々によって、即日、全室の入居申し込みをいただく。新旧の入居者たちはこれをきっかけにコミュニティ当事者としての意識を持ち始め、活動的な住環境が形成されている。

2. 青豆ハウス
練馬区平和台の、東側に畑が隣接する見晴らしのよいトリプレット(一住戸三層構造)8世帯の賃貸住宅。プライベートとパブリックを交差させようと、全ての住戸の玄関とリビングダイニングが集まる2階部分に大きな共用テラスをとりアクセスできるようにしている。
オーナーと3年がかりで、「育つ賃貸住宅」をテーマにここでしかできないことを考えたもの。オーナーや入居者だけでなく、施工者、近隣の住人にも当事者意識を持ってもらうために、上棟式には餅まき、工事中には芋煮会、内装にかかる頃には入居予定者合同でインテリアのワークショップなどを行った。完成後にはまちの人々にお披露目し、現在では入居者が率先してお互いの交流や近隣との関係性を意識して、日々の暮らしを楽しみながらコミュニティを熟成させている。

<篠原靖弘さんの仕事>
1. 西国図書室
古民家でのシェアハウス体験から、まちに開いた暮らしをしたいと、篠原さん自身が行った自宅の「住み開き」。1階を週末だけの図書室にして、みんなが持ち寄った本を読んだり、絵を描いて遊んだり、誰でも訪れることができる図書室にしている。これを発展させて、国分寺を本のまちにするプロジェクトを企画中。

2. まち暮らし不動産
仲間と始めた、まち探し・部屋探しの不動産屋。まず、まちを好きになってもらおうと、一緒に歩きながらまちを知り物件の見学をするディスカバリーツアーを開催。ツアー後に個別の相談をていねいに行い、「どんな暮らしをしたいか?」を一緒に考えながら、部屋探しを行う。ツアーを通じて「国分寺さんち」「ウエスモリ」「ヒロベカバン&Klang」など国分寺エリアに新たな場が生まれている。

3. みかんハウス
松戸市常盤平の9世帯の賃貸シェアハウス。キッチンも浴室もある部屋、トイレのみがある部屋など、広さ・設備が異なる個室を設け、自分の暮らしにあったプライバシーを選べるようになっている。カップルでも、小さな子どものいる家族でも暮らせる。また、まちとつながるパブリックコモンを設けて、シェアハウスの住民だけではない、地域の人たちとの関係がつくられる。

4. 西荻プロジェクト
木造2階建ての二世帯住宅の二棟あるうちの一棟をリノベーション。1階部分をキッチンのあるまちのコモンスペースとする計画。2階はシェアハウスとなる。まちの人が集まり、ごはんをつくって食べる「まち食」、食にまつわる小商いなど食を中心として活動するメンバーがコモンスペースをシェアする。来春オープンに向けて、工事中の様子も公開中。

5. おたがいさま食堂
まちの人と一緒につくって食べる「まち食」の取り組み。阿佐ヶ谷を拠点に毎月1回開催。

*1 ぶんぶんウォーク
11月に開催された国分寺のお宝を再発見するまち歩きイベント。もともと国分寺に住む人々や国分寺を拠点として活動する人々が集まって自主的に始めたもの。4回目となる今年は60を超える企画イベントが用意され、参加者は地図を片手に路地を巡り、さまざまな催しに参加したり休憩したりして、まちを満喫した。

*2 シェアハウス
一つの住宅を複数の人と共用して生活をする住み方。

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