ののわ

地域のみんなで探す 伝えたい"ののわ"

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記事詳細

物語の先に続くもの。
~47編のまちの物語『国立文庫』~

人びとの暮らしが紡ぎ出す、たくさんの物語

 まちにはそれぞれ個性がある。国立と書いて「くにたち」と読むこのまちには、とくに自分らしいこだわりを大切にしている人が多いように感じる。通りには食材にこだわる飲食店や、物語性を感じるカフェが自然と目につき、すれ違う人びとも自分の好む暮らしを丁寧に生きているように見える。そして、このまちが好きだと言う人が多い。
 そんな国立の人びとが織りなす過去・現在・未来の、47編の物語が収録された『国立文庫』という本がある。1編が150文字という短い物語は、その先の続きを感じさせるように締めくくられ、となりのページには物語を聞いた場所の地図。物語はどれも、人びとが営む日常のワンシーンを切りとっている。主人公の目線を通したまちには新しい発見があり、彼らの小さな日常の事件譚にほっこりしてしまう。そして150文字を読み終える頃には、主人公の人柄のぬくもりに少し触れているような気がする。
 主人公たちと話をしてみたい、本を閉じる頃には自然とそんな気持ちが生まれていた。物語の地図を辿りながら国立を歩けば、これまでより深く国立を知ることができるかもしれない。物語の続きを聞きに行けば、主人公と友達になれるかも。そんな楽しげな予感を感じながら、『国立文庫』を片手に主人公のもとを訪れてみることにした。

「ジャッキン・ボックス・ワールド」の物語

『ある日、剣玉片手に店を訪れた風変わりな男。どうやら外国人らしい。唐突にオレの目の前で剣玉の腕前を披露した後、懐から電子辞書を取り出してオレに見せる。そこには「この店 は 居心地 が 良い」と表示されていた――。』――104ページ「アメリカのともだち」より抜粋

 多くは語りあわずとも通じ合う男の友情は、端から見ても格好良い。そんな格好良い友情を育むふたりに会いたくなって、昔ながらのまちなみが残る谷保(やほ)駅を降り、『国立文庫』の地図を見ながら進んでいった。
 私を出迎えたのは、店頭に佇む巨大な緑色のゴリラのオブジェ。まるでテーマパークのような空間は、すべて店主である山形さんが制作を手掛けたものだ。「まだまだ未完成なんだよ。国立のサグラダファミリアみたいなもんだ」。そう言ってはにかむ山形さんといっしょに、お化けの木のテーブルで淹れたてのコーヒーを飲む。まるでおもちゃ箱の中にいるようだけれど、ほっと落ち着く。青年アレックスが初めて電子辞書で贈った言葉、「この店 は 居心地 が 良い」。それは年齢や国籍関係なく、訪れる誰もがそう思うのかもしれない。
 山形さんは、木製のオブジェやディスプレイ広告制作会社の社長なのだそうだ。店を訪れる人たちとともに、これまで培ってきた技術を活かした新しい可能性を拓いていきたい。それを楽しみにしているんだと、力を込めて話してくれた。

 この日アレックスと会うことはできなかったけれど、山形さんからアレックスの意外な一面を教えてもらうことも出来て、またこの場所に来る口実ができたような気がしてなんだか嬉しくなった。

「石沢靴店」の物語

 谷保駅からほど近く、昭和のまま時が止まったかのような商店街「ダイヤ街商店会」の持つノスタルジックな雰囲気が好きで、アーケードの一角にある「石沢靴店」を覗いてみることにした。そこには、物語の中の老舗靴店の光景がそのまま再現されていた。

『女性客たちは皆、靴を選びながら彼女たちの人生の断片をこの店に置いていく。そこで語られる孫の話やご近所の噂話、郷里の話、娘時代の話――。その全ての言葉は、店主の柔らかい笑顔が受け止めてくれる。』――100ページ「いつも待っていてくれるひと」より抜粋

 すこし緊張しながら店内に入ると、接客中だった女性の店員さんが、わたしが手に持っていた『国立文庫』に気づいて会釈してくれた。話を聞くと、しっかり者の女性はなんと店主の娘さん。お店の手伝いを始めて今年で2年目だそう。店主の石沢さんも物語の印象のままの気さくな人柄で、用意してもらった丸イスに腰かけながらの会話は途切れることなくはずんだ。
 「お店というのは、誰かが入ってきてくれることが大事。それと、入ってきたお客さんが、気を使わないことが大事だね。人を思いやり、感謝して、欲をかかないことが一番大事」。そんな石沢さんのさりげない言葉に、老舗靴店の秘密の一片を見た気がした。聞くと石沢靴店には地元のみならず、都心から訪れる常連さんも多いそう。都心のデパートもいいけれど、石沢靴店に来るときは気取らずに、今日あったことや「ちょっとまけてくれない?」なんてことも気軽に言える。お洒落やお買いものを心から楽しむお客さんの気持ち、感謝を忘れない石沢さん父娘の気持ち、永く続いていくものがここにはあるような気がした。

 石沢さんに教えてもらった大切なことを手帳に書きとめて、感謝をのべてお店をあとにした。今度は石沢さんに、母へのプレゼントを見立ててもらおうかな、なんて思いながら。

「CAFE LUCCA」の物語

 谷保駅から国立駅までのバスから眺める大学通りには、緑豊かな並木とおしゃれなお店が並んでいる。むかし、国立のまちを初めて訪れたときの強い印象は、若い店主のこだわりが光る新しいお店が多いことだった。そんな印象的なお店のひとつが、大学通りからすこしはずれた、富士見通りのスイーツカフェ「CAFE LUCCA(カフェ ルッカ)」だ。

『大学通り沿いのケーキ教室。双子の幼い姉妹が揃って出かけたのは、いつもこの教室の前だった。大きな窓の向こうは素敵な奥さん達が作る、甘くて美味しい世界。少し背伸びをしてぽかんと口をあけながら、夢中で窓の向こう側を眺め続けた。その時、双子の姉妹が共に描いた夢と、その行方は。』――56ページ「しあわせの種」より

 双子の姉妹が開いたお店は、想像していた通り女の子の憧れがぎゅっと詰まったようなかわいいお店だった。『国立文庫』を持って店内に入ると、笑顔が素敵な久美子さんと美佐子さん姉妹が喜んで出迎えてくれた。
 教室を覗きこんでいたふたりはやがて大人になり、その教室に通い始めた。それから紆余曲折を経てお店をオープンしてから今年で7年たつ。お店をやっていて本当にうれしかったことは、ケーキを食べてくれたおばあさんに「あなたのケーキ、しあわせになるよ」と言ってもらったことだそうだ。
 「やさしい味のお菓子作りを目指しています。心をこめて作ったお菓子を食べてもらって、同じやさしい気持ちになってほしいんです」。そう笑顔で話す久美子さんは、お店の看板のオレンジのように明るく元気な人柄だ。彼女が心をこめて作るお菓子なら、日々の心のささくれもやさしくふんわり包み込んでくれそう。

 お店の運営を担当している美佐子さんと一緒に、ふたりでおばあちゃんになってもここでお店を続けたい、と話す久美子さん。同時に、双子のおばあちゃんのかわいいスイーツカフェの姿が頭の中に浮かんできて、これからの「CAFE LUCCA(カフェ ルッカ)」がより楽しみになってきた。

物語から浮かび上がる、まちの多面性。

 この日、3つの物語の主人公から物語の続きを聞くことができた。主人公たちの言葉で語られる物語の続きを聞きながら、わたしの中にもまた、新しいまちの物語が浮かんでくるような気がした。
 『国立文庫』のプロジェクト概要には、「まちは人々の物語が散りばめられた一つの文庫である」というコンセプトがある。物語を実際に探訪することで、まちはそこにいる人の数だけ多面性を持っているということを目の当たりにした。人びとの言葉から映し出される「国立」は様々な形をしており、「物語の続き」にはそれぞれ人生のような深い輝きが秘められているような気がする。
 まちに暮らす人びとの中にねむっている物語を編集したのは、パブリックアーティストの木村健世さんを中心に立ち上げられた「国立文庫編集室」の8人のメンバーたちだ。まちあるき取材ワークショップを主催し、参加者とともにまちの人びとへの突撃取材を行っていった。運営メンバーの吉野佳さんは、「このプロジェクトを通して、個人的には本をつくること自体より、まちの人や場所と出逢い、関係をつくることに興味がありました。国立文庫プロジェクトの捉え方は人それぞれかと思います。この記事のように、読む人も文庫を自由に捉え思うまま使ってくれたら嬉しい」と話す。これから『国立文庫』を読む人、主人公のもとへ訪れる人の数だけ、また新しい物語が生まれるのかもしれない。そう想像するとまちが更に面白くなっていくような気がして、これからの国立文庫プロジェクトに期待が高まってきた。

(編集/テキスト/撮影 加藤 優)

【information】

「ジャッキン・ボックス・ワールド」
〒186-0003 東京都国立市富士見台2-23-5
TEL=042-571-1737
http://www.jackinthebox.jp

「石沢靴店」
〒186-0003 東京都国立市富士見台1丁目8-40
TEL=042-572-9481
※2015年2月、店主の石沢さんがお亡くなりになり、現在は娘の奈々美さんが経営されています。
心より石沢さんのご冥福をお祈りいたします。

「CAFE LUCCA」
〒186-0004 東京都国立市中1-15-6 1-C
TEL=042-572-7813
http://www.cafe-lucca.com/

【2015年初夏、『国立文庫』重版発行決定!!】
「国立文庫プロジェクト」 国立のまちを物語でとらえるプロジェクト。
アーティストの木村健世氏と国立文庫編集室によって2014年5月に本になり、市内各所で1000部を配布。
2015年初夏、重版を発行することが決定した。
http://kunitachi-bunko.tumblr.com

加藤 優(地域ライター)
国分寺史跡のそばに暮らす。好きなものはもこもこしたもの。

<気になるコト>
武蔵野・多摩の歴史と人。

※2015年5月20日現在の情報となります。

緑(国立市の色)と桃(大学通りの桜の色)の『国立文庫』。

「ジャッキン・ボックス・ワールド」の店主、山形さん。常連犬と一緒に。

今年で50周年を迎える「石沢靴店」の石沢さん父娘。

「CAFE LUCCA」の篠原久美子さんと美佐子さん姉妹。

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