ののわ

地域のみんなで探す 伝えたい"ののわ"

地域の人がライターとなり、自分のコトバで、
この地域の魅力を「発見」「発掘」「発信」していきます。

記事詳細

~おなかをみたすだけじゃなく、こころをみたす~
「ワインバル うららか くにたち」 上田友紀子さん

2011年 ある日
 その日は、まっすぐ帰りたくなかった。
偶然誰かに会わないかと無意味に街をふらふらして、駅前の本屋で文庫本を買った。
その足でちょっと気になっていたワインバルへ向かう。
ヒトリで飲む時は気軽に読める文庫本が最適だ。そう思いながら店の扉を開けた。

 それが「ワインバル うららか くにたち(以降、うららか)」との最初の出会いだった。
そして、買った文庫本は読まれることはなかった。「うららか」の女性店主やカウンターのお客さんと思いがけず会話を楽しむことになったからだ。
その店主が、上田友紀子さんだった。

2010年8月
 国立駅北口から徒歩3分。上田さんは居抜きでテナントを募集していた店舗を訪れていた。
居抜きとは、閉店を控えた店舗の設備や内装を売買すること。買う側にとっては比較的低コストで新規開店できるのが利点だ。
前日で営業を終え、閉店した店の中を見学する。
歩道から扉まで、少し空間があることも気に入ったが、何より、中に入った時に自分がやりたい店の形がイメージできたことが決め手だった。
ほとんど直感だったそうだ。だけど、直感だけでは動かない。立地と設備を専門家である友人に見てもらい、最終決定した。

B to B*1からB to C*2

 「うららか」を開店するまで会社勤めをしていた上田さんは、仕事を始めた時からフリーランスを意識していた。自分のやったことが自分にダイレクトに戻ってくる、そんな仕事がしたいという気持ちがあったからだ。
その日に向けてキャリアを積みながら、趣味である外食やスキーを思う存分楽しんだ。職業柄、仕事で一流ホテルに宿泊する機会もあった。そんな日々の中で、会社の経費で受けたサービスと自分のお金で受けたサービスでは満足度が異なることに気づく。
「自分で働いて得たお金を出した時にいいサービスを受けると、やっぱり感動するし今度は友人を連れて行きたくなる。誰かにシェアしたくなる」
自分の気持ちをそんな風に動かしたサービスを自分でも提供してみたい、そう思い始めた。
いいなと思ったことを自分でもやりたい。そんなシンプルな気持ちだった。
「個人が個人のお金で来てくれること、これが究極の満足度だと思って。もちろんB to Bでやった方が基盤が安定するんですが、そこはあえてB to Cでやりたいっていう気持ちが強くなったんです」
ワインをもっと身近に感じてほしいという思いや趣味を通じて出会った友人たちも背中を押してくれた。
2010年10月 「うららか」は、上田さんの発信基地局として国立に誕生した。

転機がもたらしたもの

 開店から3年を待たずに閉店する飲食店は多い。上田さんが飛び込んだのはそんな厳しい世界だ。
「なんとかなる」と思い切って始めたが、いざ始めてみると、やはりそんなに甘いものではなかった。
毎日を夢中で過ごし、いくつかの過渡期を越え、大きな転機となった出来事がある。そのひとつは専門家のアドバイスを受けてランチ営業をやめる決断をしたことだ。
規模が小さい個人店は一人のスタッフにかかる負荷が大きい。店主ともなればなおさらだ。
昼のランチ営業、夜のバル営業が続き、心と時間に余裕がない、そう感じる日々だった。
ランチ営業をやめることは、売上に直接影響する。もちろんリスクもある。
でも、やりたかったことってなんだろう? 私の強みって何だろう?
「うららかの一番の強みは、私がユーザーとして得た経験を提供することだと思っているんです。外のお店を見る時間や余裕がないことで、ユーザーとしての気持ちをなくしてしまうことは私の強みをなくしてしまうことだから」
そう考えて決断した。
ランチ営業をやめることで得た時間を新メニューの開発やワインの試飲会に充て、主軸となるバル営業の料理・ワインの充実を図ったのだ。

 時を同じくして、ともに「うららか」を運営してきた経験豊富なスタッフの退職が決まる。
大きなふたつの転機を迎えた上田さんは初心を思い出していた。
「うららか」は、「いいなと思ったことを自分でもやりたい」、そう思って生まれた店だ。店をスムーズに運営することも大事だが、「こういうお店にしたい」という気持ちを今まで以上に大切にしたいと思った。
新しいスタッフを採用するにあたり、その思いを共にできるかどうかを唯一の条件にした。
こうして集ったスタッフは「うららか」に新しい風をもたらす。スタッフ全員が「こういうお店にしたい」という上田さんの目的や価値観を共有する。それがかなった時、「うららか」の雰囲気や空気感は大きく変わっていった。
そのせいだろうか。ランチ営業をやめたにも関わらず売上はゆるやかながら上昇していったのだ。

サードプレイス*3としての「うららか」

 「こういうお店にしたい」を、より具体的に伺ってみた。
「家庭でもない、職場でもない、第三のコミュニティに属すると人生が豊かになる」
上田さんの人生の先輩の言葉だ。
その言葉を原点に「うららか」を第三のコミュニティ=サードプレイスとして存在させたい。その思いを語る上田さんが聞き慣れない言葉を口にした。
「エクスペリエンス」
・・・その言葉、初めて聞きました。
エクスペリエンスの一般的な意味は、経験、または経験によっておこる事象のこと。
ここで言う「エクスペリエンス」とは、モノ(商品=料理やワイン)・ヒト(スタッフ)・ハコ(「うららか」という空間)がバランスよく機能した時に得られる経験や時間のことだ。
・・・難しいです。
「つまり、人は商品だけを求めているのではなくて、その商品から得られる経験や時間も求めているんじゃないでしょうか。その経験を提供できることが飲食店として一番の成功だと思っています。そして、その経験を提供できた時、その場所が、その人のサードプレイスになるんだと思います」

 モノ=充実を図った料理とワイン。ヒト=目的や価値観を共有できるスタッフ。そしてもうひとつ、ハコ=「うららかという空間」を楽しんでもらうために行っていることがある。それがイベントの開催だ。
収穫祭へ行くバス遠足やお花見、ドッジボール大会など、お客さまとスタッフが一緒に楽しむ時間をつくっているのだ。
一緒に過ごす時間は同じ思い出をくれる。その思い出は「うららか」での楽しい会話につながる。
「イベントは私たちスタッフとお客さまの距離を縮めてくれます。住宅街にある飲食店だし、飲食店が人を結ぶってことをするのもいいんじゃないかな」

モノ・ヒト・ハコ。
 調和がとれたワインのようにそれらが機能してきたことを上田さんは感じている。
「うららか」の営業中、忙しいながらも心地よいざわめきの中で、ふと実感することがある。
「そう。これが私が思い描いていたバルの雰囲気なんだ」
心の底からわきあがるような幸福感が上田さんを包んでいた。

 その幸せなシーンを想像しながら筆者は思い出す、初めて「うららか」を訪れたあの日のことを。
空腹を満たすものとして料理やワインを求めていたのではない。おいしいものに出会った時の嬉しくなる気持ち、心地よいサービス、いい雰囲気の中で楽しむ会話、それらが積み重なって過ごす時間、そんな「エクスペリエンス」を求めていたのだ。
店を出た後も余韻が残って、ちょっとこころがあたたかくなる。あの日の筆者にとって「うららか」は確かにそんな場所だった。
・・・そう上田さんに告げてみる。すると、人なつっこく笑ってこう言った。

「飲食店の役割は、単に料理や飲物を提供するだけじゃない。おなかをみたすだけじゃなく、こころをみたさないと」

2015年 春
空を見上げながら、ふと思った。
きっと今夜も人が集っているのだろう、あかりがうららか*4に灯るあのカウンターに。
ヒトリだけど孤独じゃない、そんな風に感じながら。

(編集/テキスト 高田理抄子、 撮影/松井信雄)

*1 「B to B」
Business to Businessの略。企業同士の取引。

*2 「B to C」
Business to Consumerの略。企業と消費者との取引。

*3 「サードプレイス」
家庭(ファーストプレイス)、職場(セカンドプレイス)とは別の、一個人として寛ぐことができる第三の居場所のこと。

*4 「うららか」
春の太陽がやわらかく照っている様子。「うららか」HP 店名の由来より

【information】

「ワインバル うららか くにたち」
〒185-0034 国分寺市光町1-39-19 MSYビル 1F
TEL=042-573-8503
http://www.ulalaca.net/

高田理抄子(地域ライター)
実はフットワークがすごく重いタイプ。でも、ピンときた「ヒト・モノ・コト」にはまっすぐ飛び込みます!

<気になるコト>
もうひと手間、もうひと工夫、そんな風に仕事と向き合う人

※2015年4月20日現在の情報となります。

右:上田友紀子さん
「うららか」の店主であり、オールラウンドプレイヤーでもある。
左:スタッフのひとみさん
(取材先提供)

奥:お野菜のお勧めタパス3点盛り
手前:選べる3点盛り
ファーストオーダーは、やっぱりこれ!
ちょっとずつ、いろいろ食べられるのが好評で、常連さんのリピート率も高い一品。

お客さまで画家の東海林ユキエさんからのプレゼント。
あたたかみのある作品はアットホームな店の雰囲気にぴったり。

ナチュラルチーズ盛合せ
ワインの恋人は、やっぱりチーズ。ワインエキスパートでありチーズプロフェッショナルでもある上田さんが厳選しました。

奥:ゴルゴンゾーラのクリームペンネ
料理用ではなく食用のチーズを使っているこだわりの品。
ハーフサイズもあり、ヒトリで来た時も気軽にオーダーできるのが嬉しい。

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